転職や就職するとき、「どのような介護事業所で働くのか」を最初に決めなければいけません。「介護職」といっても、働ける介護事業所にはいろいろな種類があり仕事内容も少しずつ異なります。そのため、どのような介護事業所があるのかを知ることが必要です。
介護事業所の種類を大きく分けると、「訪問系」「施設系(入所系)」「通所系」の3つに分けることができます。
これら3つの種類の中でも、さらに細かく事業所の種類が分かれます。
介護職員が働くことのできる訪問系介護事業所は「訪問介護」「訪問入浴」「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の4種類です。
もし、訪問系介護事業所に転職・就職を考えているならば、それぞれの事業所の違いや仕事内容を理解することで「より自分にあった職場」を選ぶことができます。そこで、ここでは介護職員の転職先・就職先となる訪問系介護事業所の種類について確認していきます。
利用者の住まいに訪問して支援をおこなう訪問系事業所
訪問系の介護事業所では、主に利用者の自宅に訪問して必要な援助や介助をおこないます。そのため、施設系や通所系の介護事業所と違って利用者一人に集中して携わることができるのが特徴です。
その反面、介助する場所が利用者の自宅であるために、利用者や同居する家族の生活習慣などにも配慮しながら援助をおこなうことが要求されます。
以下に、4つの訪問系介護事業所についてまとめます。
生活援助や身体介護をおこなう訪問介護事業所
訪問系の介護事業の中でも一番事業所数が多いのは「訪問介護事業所(ヘルパーステーション)」です。ヘルパーステーションで働く介護職員は「ヘルパー」と呼ばれます。ヘルパーは、主に生活援助や身体介護をおこないます。
具体的には、利用者の自宅を訪問して掃除や洗濯、調理などをおこなう「生活援助」と、入浴や排泄、食事の介助などをおこなう「身体介護」です。一回につき20分~1時間程度の訪問時間で決められたプラン(計画)に沿った援助をおこないます。
ヘルパーの仕事は、掃除や洗濯、調理などの生活援助であれば、介護の専門的な知識が少ない未経験者でも始めやすい事業所です。しかし、訪問時は基本ヘルパー1名での訪問になります。
そのため、訪問先での対応はすべて1人でおこなわなければいけません。また、事業所の施設に通っていただく通所系などとは異なり、ヘルパーの場合は利用者の自宅での援助になります。つまり、利用者や同居する家族のやり方を重視することが重要になります。
具体的には、掃除の仕方や調理器具の使い方、食事の味付けにもそれぞれの家庭のこだわりがあるということです。そのため、利用者一人ひとりに合わせて細かいマニュアルや決まりごとを設けて、訪問時にはヘルパーをマニュアルに沿って援助するケースあります。
さらに、利用者宅にはヘルパー1人で伺うこともあってヘルパーになりたての人の中には、誰にも相談できないことに対して不安を感じる人もいるようです。
ただ、マニュアルを渡されていきなり1人で訪問させられることはないので安心してください。利用者にとっても、いきなり知らないヘルパーが来られては困惑します。そのため、研修も兼ねてはじめはベテランのヘルパーに同行して細かい決まり事を学ぶところから始めます。もちろん、独り立ちした後も、何かあったときには電話で事業所に相談することも可能です。
また、訪問介護事業所の多くが正社員よりも非正規雇用(パート)の介護職員によってサービスを提供していることも特徴の1つです。一回の訪問にかかる時間が短く区切られることもあって、パート勤務の人にとっても自分の都合に合わせて働く時間を調整できるというメリットがあります。このような、パートのヘルパーを北九州市内の事業所では「登録ヘルパー」と呼んでいます。求人募集でも「登録ヘルパー募集!」という表現を使っているケースが多いです。
訪問介護事業所では、週2日や1日4~5時間程度というような働き方がしやすいというメリットがあります。しかし反対に、利用者宅から次の利用者宅に行くまでの時間のロスがうまれたり、訪問先への移動手段をヘルパー自身で確保しなければいけなかったりというようなデメリットもあります。
このようなことから、ヘルパー自身が車を所有しているとより良いです。
もし、車を持っていないならば、訪問する地域を狭く固定している事業所がおすすめです。なぜなら、小倉北区から八幡西区までというように広範囲でサービスを提供している事業所では移動に車が必須ですが、八幡西区でも折尾地区限定であれば徒歩でも移動が可能になります。
看護師と一緒に自宅での入浴を介助する訪問入浴介護事業所
訪問入浴介護事業所は、身体的な理由から自宅や通所系での入浴が難しい方に対して、移動入浴車で自宅を訪問し入浴のサービスを提供します。
訪問介護にも入浴サービスがありますが、訪問介護の入浴サービスでは利用者の入浴の見守りや簡単な介助が中心です。一方、訪問入浴介護では寝たきりの方など浴槽までの移動が困難な方に対して、看護師の健康チェックや簡易浴槽の設置、入浴介助までをおこなうサービスです。
訪問の際は看護師1名と介護職2名で利用者の自宅に行き、ベッドの横に簡易的な浴槽を設置して利用者の安全に配慮しながら入浴の介助をおこないます。
介護職員の役割は「入浴の準備」「脱衣の介助」「浴槽への移乗介助」「洗髪・洗身」「着衣の介助」「後片付け」などです。これら一連の介助を看護師と分担しながらおこなっていきます。
利用者は、寝たきりの人など介護度の重い方がほとんどです。また、在宅酸素や経管栄養など医療的な観察が必要なかたも多いです。そのため、その日の利用者の体調などにも気を配りながら、より慎重に介助をおこなう必要があります。
このように自力で動くことが難しい利用者に対する移乗や着替えは、経験や技術を要するため介護経験の浅い介護職員は経験を積むまで苦労するかもしれません。
しかし、他の訪問系の仕事とは異なり3人のスタッフで訪問するため、わからないことはその都度ききながら進めていくことができます。また、施設などでの通常の入浴介助とは違って「特殊な入浴介助」であるため、自身の介護経験や技術の向上には大きく役に立ちます。
実際、訪問入浴介護事業所での勤務を経験している介護職員は医療的な知識も増え、さまざまな利用者宅を訪問して臨機応変な対応をしてきた経験から施設系へ転職した後もその経験や知識がとても役立ったと言われる方が多いです。
在宅生活で夜も安心して暮らせるように支援する夜間対応型訪問介護
夜間対応型訪問介護は、夜中の時間帯に利用者の自宅を訪問して要介護者が夜間も安心して生活できるように支援する事業所です。
夜間とは主に22時~6時までの時間帯を指します。
サービス内容は、「定期巡回サービス」と「オペレーションセンターサービス」「随時訪問サービス」の3つです。
定期巡回サービスでは、介護計画書(ケアプラン)の計画に基づいて介護スタッフが定期的に利用者宅を巡回して訪問介護をおこないます。具体的には、一人暮らしの高齢者への就寝準備や安否確認をおこなったり、家族の介護負担軽減のために夜間のトイレ介助やオムツ交換、体位交換をおこなったりします。
2つ目のオペレーションセンターサービスは、利用者や家族から通報を受けたオペレーターが利用者の状況に応じて「ヘルパーの派遣」」や「主治医への連絡」「救急車の手配」などをおこなうサービスです。実際には、一人暮らしの高齢者が夜間に転倒して起き上がれずに通報があったり、家族だけでは対応できずに協力を求めて通報されたりしています。
そして、3つ目の随時訪問サービスは利用者からの通報を受けて介護スタッフの訪問が必要だと判断されたときに訪問介護をおこないます。そのため、転倒や体調の変化など緊急時の対応が多いです。
利用者宅への訪問は、身体の状況や緊急時などのケースによっては介護スタッフ2名で訪問する場合もありますが、基本は1名での訪問になります。
1回の訪問は30分間程度ではありますが、複数の利用者宅を定期的に巡回することを踏まえると休憩時間以外は訪問と利用者宅から利用者宅への移動を1人で繰り返す形になります。
また、利用者や家族からの通報を受けるオペレーターは通報内容に対して適切な対応方法を選択することが重要になります。そのため、看護師や介護福祉士、医師、保健師、准看護師、社会福祉士、介護支援専門員などの有資格者でなければいけません。
このようなことから、介護経験がある程度あり1人で黙々と仕事をしたい人や日中は趣味などにあてて夜間の仕事に就きたいという人に向いている仕事といえるのではないでしょうか。
ただ、利用者宅の鍵をあらかじめ預かるという点や一人での介助がメインになるため、事業所も未経験の人よりある程度介護の経験のあり信頼できるスタッフを求めることが多いです。
一日を通して訪問サービスを提供する定期巡回・随時対応型訪問介護看護
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、2012年(平成24年)の4月に創設された介護サービスです。定期的な巡回と随時の訪問で、介護が必要な高齢者の在宅生活を支えることを目的に創設されました。
夜間対応型訪問介護と異なる点は、「夜間だけではなく一日を通して定期巡回サービスを提供することができる」と「訪問介護だけではなくて訪問看護も組み合わせながら提供することができる」という点です。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護が提供できるサービスは4つあります。
1つ目は、定期巡回サービスです。定期的に利用者宅を訪れて、必要な介護をおこないます。一日に複数回の訪問をおこなうことができ、介助の内容や回数、訪問時間などは利用者との相談で決めることができます。
2つ目のサービスは、随時対応サービスです。あらかじめ利用者の心身の状況や自宅の環境などを把握しておき、随時利用者又は家族などからの通報を受けて相談援助や訪問介護、訪問看護による対応を判断して連携をはかります。
3つ目のサービスは随時訪問サービスです。利用者や家族などからの通報を受けて訪問が必要だと判断された場合に、介護職または看護職が自宅を訪問して支援します。常に、おおむね30分以内には訪問できるような体制が整えられています。
そして、4つ目は訪問看護サービスです。主治医による意見書に基づいて在宅生活での療養に必要な援助をおこないます。具体的には、カテーテルの交換やインシュリンの注射、点滴、血糖値の検査、医療機器の設定管理など利用者の状況に合わせた内容です。
これらのサービスを1つの事業所がおこなうことで訪問介護と訪問看護を別々の事業所が提供する時に比べてより連携した対応をおこないことができます。また、夜間の時間帯にも同じ事業所からサービスを提供することができることも特徴の1つです。
ただし、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所には2つのタイプがあります。
1つは「一体型」といわれる事業所です。一体型では、介護職による日常生活上の支援と看護職員等による療養上の世話や診療の補助の両方を提供することができます。
もう1つは「連携型」です。連携型は訪問介護サービスを提供して、訪問介護をおこなう事業所と連携して必要なサービスを提供するものです。
北九州市内の定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所では、一体型と連携型がおおよそ半分の割合になっています。
また、事業所によって異なる点がもう1つあります。
それは、事業所によっては同じ法人のサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームの入居者を主な利用者としているケースもあるという点です。これらの老人ホームに住む要介護者は、介護保険制度の上では「在宅」扱いになります。そのため、施設で生活を続けるために、デイサービスや訪問介護などの在宅サービスを利用することになります。
そこで、これらの老人ホームを運営する法人が施設と一緒に定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所を立ち上げて入居者が利用しながら在宅生活を続けられるようにしていることも少なくありません。同じ法人内の事業所であるため、事業所の異なる事業所であっても連携がとりやすいことや、利用者宅から利用者宅への移動時間を省くことができるというメリットがあります。
このようなことから、同じ定期巡回・随時対応型訪問介護看護であっても実際に利用者の自宅に訪問する事業所もあれば老人ホームの入居者を対象としている事業所もあることがわかります。したがって、「自宅で暮らす高齢者の生活を支えたい」という思いがある人は求人募集をしている事業所がどちらのタイプなのか? を確認することが必要です。
今回は、介護職が働くことのできる訪問系の介護事業所についてお伝えしました。訪問系は在宅で生活する要介護者やその家族を支援するための制度です。施設系の事業所とは異なり、大人数の利用者を一度に対応していくのではなくて利用者1人に集中することができます。つまり、より個別ケアを重視することができます。
そのため、「利用者のペースでゆっくりと関わりたい」「在宅生活のお手伝いをしたい」という思いの強い介護職にはおすすめの事業所です。
ただ、利用者の自宅でサービス提供をするという点で「利用者や家族の生活習慣に合わせなければいけない」「信頼関係ができていないとあらぬ疑いをかけられてしまう」ということもあります。そこで、訪問系の事業所で働く介護職には利用者や家族との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力や、それぞれの生活習慣に合わせて支援できるように臨機応変な対応力が求められると考えます。
また、介護制度ではこのほかにも在宅で暮らす要介護者の生活を支えるために「訪問看護」や「訪問リハビリテーション」「居宅療養管理指導」の訪問サービスがあります。
これら3つの介護サービスは看護師や薬剤師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などが提供するサービスです。そのため、介護職が求職活動する上では除外されますが介護制度の仕組みを理解するという点からサービス名だけでも知っておくとよいでしょう。
このように、訪問系事業所と一言でいっても事業所の種類によって仕事内容や勤務時間などが異なります。そのため、訪問系事業所へ就職や転職を考えている場合は求人先の事業所の種類を確認して応募することが必要です。
しかし、働いたことのない種類を検討するケースでは実際の仕事場や職場の雰囲気などわからない点も多く、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、ジョブケアプラスでは様々な事業所の方々のインタビューや動画で職場の雰囲気をわかりやすくお伝えしています。ぜひ、一度ご覧ください。